なぜ君は総理大臣になれないのか
この前の日曜日、映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を観てきました。
なんかいい映画やってないかなぁってヤフー映画で公開中の映画リストを眺めてましたら、異様に高いレビュー点になっている作品を発見。
なにやら中堅の政治家を20年近く追いかけたドキュメンタリー映画とのこと。監督は大島新。
政治家は小川淳也…。聞いたことない。
政治家を扱ったドキュメンタリーということで、ほんとに面白いのか?いわゆるプロパガンダ系の映画だったらやだな。。とか、あまり気が乗らないというか期待薄だったのですが、他に面白そうな映画もやってないし、これだけ高いレビュー点を取っているということは、それなりの作品であろうと踏んで観に行ったわけです。
結果は…
観に行って正解…。正解でした。
鑑賞後は、心が震え、興奮醒めやらぬ状況に。
2時間、引き込まれました。
こんなに真っ直ぐで、誠実で、正直で、一本筋の通った魅力的な政治家がいたんだ!
それでいて頭が良く、弁が立ち、暖かく、人を思いやれて、エネルギッシュであり、堅実、質素であり、バランス感覚に優れ、実務的であり、驕らない。自己犠牲の塊。侍。
これが言い過ぎ、褒めすぎじゃなく、そのまんまそういう人だということが映画を通して伝わってきました。
まさに政治家になるべくしてなったような人。
理想の政治家。
作中で、特に心に響いた発言があります。
「選挙では51対49で勝負がつくことがある。結果だけ見ると、白か黒かということになる。しかし、政治家はそうであってはならない。勝った51のみのために政治をしてはならないのです。負けた49も背負って政治をするべきなのです」
※記憶で書いてるので、正確ではないですが、ニュアンスとしてはそういうことを言ってました。
あぁ良いこと言うなぁ、なるほどなぁ。
そう思いました。
映画では、極力政治色を排除し、彼の政治的思想、信条は作中からほとんど分からなかったので、家に帰ってから、小川淳也さんを調べまくりましたよ。
そしてたどり着いた小川淳也チャンネルで、3時間半の生放送アーカイブを最初から最後まで観てしまいました。
3時間半?と思いましたが、見出したらあっという間。小川さん、ほんとにめちゃくちゃ話が上手くて、面白いのです。引き込まれます。
映画の内容はと言いますと・・・
そんな理想に燃えた政治家小川淳也を、その出馬から17年に渡り追いかけたドキュメンタリー。
政治家を扱ってはいるものの、作品の中で彼の政治的主義主張、思想の表現はごく限られた形にとどめられており、むしろ、一人の青年が大志を抱いて世の中に出て、成功と失敗を繰り返して成長するボーイズビーアンビシャス的成長物語といった作品に仕上がっております。
いや、というよりも、当初はそれを目指していたのに、あまりにもゴールが遠すぎて時間がかかりすぎるもんだから、とりあえず中途半端だけど耐えきれず作品に仕上げました、という感じでしょうか。
そう。これは台本のある創作劇ではなく、ノンフィクション。
今も続く現在進行系の実話なのです。
台本がない故に、現実は思うように進まず、物語は完結できず、かなり中途半端なラストとなっています。
カタルシスがないのです。
政治家を17年追いかけたのに、彼の成功といえる場面はほんのわずかであり、小さい。
いや、代議士になっているわけで、ある意味では大きな成功とも言えます。
ただ、彼にとってそれはスタートラインに立った、ということでしかない。
誤解を恐れずに言うと、彼はまだ何も成し遂げていないわけです。
大志を抱いて、妻子を巻き込み、両親を巻き込み、友人知人を巻き込んで世の中に打って出たにもかかわらず。
17年も取材したのに!
作品は、ひたすらそんな17年間を苦悩と共に映し続けます。
彼の苦悩と、彼に関わる、おそらくそれは監督も含めた周囲の人々の苦悩。そして憔悴。義憤。そう、小川さんの周りの人たちからは義憤を感じられました。なんで世の中の人達は分かってくれないのか!なんでこんな世の中なんだ!
この作品のタイトル自体がまさしくそれを表しているように思えます。
30そこそこで出馬し、政治家になって希望に燃える前半。
政界の荒波に揉まれ、傷つき、迷い、憔悴していく後半。
時が進むにつれ、明らかに顔色が青白くなり、険しくなり、自信を失っていく様子が見てとれます。
クライマックスは、2017年の選挙戦です
覚えている人も多いのではないでしょうか。
当時の民進党が事実上解党となったあの選挙です。前原さんが小池さんの希望の党と合流しようとしたところを、小池さんからハシゴを外されて大混乱となった曰く付きの選挙ですね。
映画では、この選挙戦に総力をかけて取り組む小川さんや家族一同、友人知人の姿が描かれます。
私はこの場面、涙なしには見られなかったですね。
映画では、2003年から彼とその周囲を追いかけ、描写されています。
はじめは小さく弱かった娘たちは、この頃には立派に育ち、頼もしくなった姿が画面に映し出されます。
はじめは若く、心細い印象だった奥様からは、この頃はなにか突き抜けた達観した印象を受けます。腹が据わっているといいますか。すごく魅力的に映し出されています。
そして、お父さん、お母さん。はじめは息子の信念を少し疑っていたものの、この頃にはその疑いはさっぱり消え失せ、しかし変わらぬ愛情と息子への誇り、信頼が彼らから感じられるのです。
家族だけではありません。
友人、知人、彼に関わる多くの人が、大なり小なりの葛藤を抱えつつも、彼を精一杯応援し、支えている。神輿を担いでいるのです。
そこには自己犠牲の精神がありました。
そう、小川さんが作中で幾度となく口にしていた、政治家に必要な精神です。
背中でそれを表す小川さんに感化されてなのか、彼の周囲の人たちも等しく、その自己犠牲の精神をもって彼の支援に取り組んでいる。
……美しすぎんだろ!!!
なんだよこの世界はよ!!
本来こうあるべき政治の世界が、ノンフィクションの作品でこんなに美しく描写されているのに、しかし結果は、現実はと言うと…。
非常に皮肉ですね。
2時間の上映時間のほとんどは苦悩と閉塞感で覆われていました。
果たして希望はどこにあるのか。
残念ながら、作中からその明確な希望を感じることはできませんでした。
伝わってきたのは、ただただ無力感と虚無感。。
だがしかし!!!
彼はまだ、政治家をしています。
家に帰って、Youtubeで彼の生放送アーカイブを観ながら、劇中と同じく、誠実に、真摯に、過剰なまでに気を遣いながら、その気を遣っていることに気を遣われることさえも気を遣ってコメントに答える彼の姿を観て、いや、希望はまだある。彼自身が希望なんだ!と感じましたね。
彼が政治家であり続ける限り、希望の灯は消えない。
そしてこの映画は、そんな希望の灯を大きく輝かせる燃料となるのかもしれない。耐えきれずに、中途半端な形で生み出されたこの作品は、彼の大志を大きく後押しすることになるのかもしれない。
Youtubeで3時間半途切れることなく上がり続けるコメントを見ながら、そんなことを思いました。
10年後、エピソード2「なぜ君は総理大臣になれたのか」を鑑賞し、カタルシスを味わいたいですね。
2020年7月14日更新
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